原発ゼロ・自然エネルギー基本法案

原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟

2018年1月10日

 

 

全ての原子力発電の廃止及び自然エネルギーへの全面転換
の促進に関する基本法案(骨子案)
〈略称〉原発ゼロ・自然エネルギー基本法案

第一 目的
この法律は、全ての原子力発電の廃止及び自然エネルギーへの全面転換の促進に関する基本的な理念及び方針を明らかにし、国等の責務及び推進体制等を定め、もって、我が国エネルギー構造の転換を実現することを目的とする。

第二 基本理念
東京電力福島第一原子力発電所事故によって、原子力発電は、極めて危険かつ高コストで、国民に過大な負担を負わせることが明らかとなり、使用済み核燃料の最終処分も全く見通しが立たない。また、原子力発電による発電量は全体のわずか1%(2015年段階)にすぎず、重要性を失っている。したがって全ての原子力発電は即時廃止する。
世界各国において自然エネルギーへの流れが急速に拡がり太陽光発電と風力発電ですでに原子力発電の設備容量の二倍を超えている。我が国のエネルギー政策においても、新たな産業と雇用を創出する成長戦略の柱として、安定的な電源となる自然エネルギーへ全面的に転換する。
このようなエネルギー構造の転換は、温室効果ガスの削減による地球環境の保全と経済構造の変革を伴う新たな産業革命を実現し、国土とエネルギーの安全保障、国民生活と食糧・農業の安全保障をもたらし、将来世代にわたる国民の生命と健康が守られ、平和のうちに安心して暮らせる自然エネルギー社会の形成に資するものである。

第三 基本方針
一 運転されている原子力発電所は直ちに停止する。
二 運転を停止している原子力発電所は、今後一切稼働させない。
三 運転を停止した原子力発電所の具体的な廃炉計画を策定する。
四 原子力発電所の新増設は認めない。
五 使用済み核燃料の中間貯蔵及び最終処分に関し、確実かつ安全な抜本的計画を国の責任において策定し、官民あげて実施する。
六 核燃料サイクル事業から撤退し、再処理工場等の施設は廃止する。
七 我が国は、原子力発電事業の輸出を中止し、人類の平和と安全のため、かつての戦争被爆及び原子力発電所重大事故の当事国として、地球上の原子力発電全廃の必要性を世界に向けて発信する。 八 急速に進んでいる省エネルギーをさらに徹底させる。
九 太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス等の自然エネルギーを最大限かつ可及的速やかに導入する。自然エネルギーの電力比率目標は、平成42年(2030年)までに50%以上、平成62年(2050年)までに100%とする。
十 地域経済の再生のため、各地域におけるエネルギーの地産地消による分散型エネルギー社会の形成を推進する。

第四 国等の責務
一 国の責務
国は、第二及び第三の基本的な理念と方針に則り、全ての原子力発電の廃止及び自然エネルギーへの全面転換を実現する責務を負う。そのため、次に掲げる法制、財政、税制、金融上の措置その他の措置を講ずる。
1 原子力基本法、原子炉等規制法、エネルギー政策基本法、経済産業省設置法等の改正を行う。
2 原子力発電の円滑な廃止のため、原子力発電施設を保有する電力事業者の企業会計等に関する特別措置を講ずるとともに、廃炉技術者の育成及び廃炉ビジネスの海外展開を支援する。
3 原子力発電関連地域及び関連企業の雇用確保、及び関係自治体の経済財政対策を行う。
4 省エネルギーの徹底のため、全ての建築物の断熱義務化、公共施設の省エネルギー及び自然エネルギー利用の義務化等
5 自然エネルギーへの迅速な転換のため、自然エネルギーによる電気の送電線網への優先的な接続及び受電、農作物生産と発電の両立を図るソーラーシェアリングの促進等
6 分散型エネルギー社会形成のため、エネルギー協同組合の創設及び同組合の設立支援等
二 地方自治体の責務
地方自治体は、国の施策に準じて必要な施策を講ずるとともに、地域の実情に即した施策を策定し、実施する責務を負う。
三 電力事業者の責務
電力事業者は、全ての原子力発電の廃止及び自然エネルギーへの全面転換の促進に自主的に取り組み、国及び地方自治体が講ずる施策の推進に全面的に協力する責務を負う。

第五 推進体制
一 推進本部及び推進会議の設置
内閣に、総理大臣を長とし関係国務大臣で構成する原発ゼロ・自然エネルギー推進本部及び有識者等で構成する推進会議を設置する。
二 推進本部及び推進会議の任務
推進会議は、全ての原子力発電の廃止及び自然エネルギーへの全面転換に関する基本計画を策定し、推進本部は、それに基づき、諸施策を確実に実施する。

第六 年次報告
政府は、毎年、全ての原子力発電の廃止及び自然エネルギーへの全面転換の推進状況に関する報告書を国会に提出しなければならない。

第七 附則
この法律は、公布の日から施行する。

(以上)

資源エネルギー庁への申し入れ文書

平成29年12月26日

経済産業省
資源エネルギー庁長官
日下部 聡 様

 

原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟
会 長 吉原  毅
幹事長 河合 弘之

【申し入れの主旨】
大手電力事業者に対して、自然エネルギー事業者に対する「空き容量ゼロ」を理由とする系統連系(受電)拒否をやめるよう強力に指導することを求める。

【申し入れの理由】
当連盟は、日本国内における、原発ゼロを求める諸団体及び自然エネルギー推進を行う諸団体の連合組織であり、加入団体数は207である。当連盟は、以下のとおり申し入れをする。
風力や太陽光などの自然エネルギーは世界的に見ると、その大幅なコストダウンの影響で大発展を遂げている。その経済的利益は、国にとっても、電力事業者にとっても、今や明らかであり、自然エネルギーの拡大が遅れることは、その国の経済の停滞を直接に招くことは明らかである。日本経済新聞その他主要報道機関も、自然エネルギーにおける我が国の大きな立ち遅れについて連日のように警告を発している。
しかも、自然エネルギーの拡大は脱原発と温室効果ガスの削減にとっても不可欠の政策である。
我が国の自然エネルギーの発展を妨げている最大のものは、政府及び電力会社による政策妨害である。これが撤廃されれば日本の自然エネルギーは極短期間に急発展を遂げ、世界の水準に追いつくことができる。
その政策妨害の主なものは、(1)「接続可能量」という電力会社が各社毎に恣意的に設定する上限(2)送電線増強のための巨額負担金の要求と超長期間の工事期間の設定(3)「各送電線の空き容量ゼロ」である。
今般はこのうちの(3)について改善を申し入れるものである。
「送電線の空き容量ゼロ」とは、次のような問題である。
中小の発電事業者が自然エネルギーで発電して売電しようとすると、その送電線を所有する大手電力事業者が、その送電線には空き容量がないということで、系統連系(受電)を拒否するということである。
朝日新聞2017年11月9日社説『再エネの普及 送電線の「空き」活用を』は、次のように報じている。
「本当に空きはないのか。京都大学の研究グループが青森と秋田、岩手、山形4県の基幹送電線について、全国の送電網利用を監督する公的機関が公表したデータを基に分析すると、実際には2~18%余りしか使われていないことがわかった。北海道でも同様の結果だった。電力大手各社は空き容量の計算方法の詳細を明らかにしていないが、基本的には先着順に接続契約している発電設備がすべてフル稼働した状況を前提にしているという。今は止まっている原発はもちろん、未完成の原発なども計算に含めている。」
要するに、送電線はガラ空きなのに、極めて不確実な自社の原発の将来の予定分などを口実に満杯と断っているのである。これは、あまりにも不合理である。
当連盟は、このような系統連系(受電)拒否をただちに改めるよう申し入れるものである。
この受電拒否をやめれば、それだけで事態は改善される。同時に上記の(2)「送電線増強のための巨額負担金の要求と超長期間の工事期間の規定」という問題点も解消される。そして我が国の自然エネルギーは急拡大する。我が国における自然エネルギー発展阻害原因は、前記のとおり、主なだけでも(1)~(3)がある。そして、政府や電力事業者は、その障害の正当性を様々な技術的理由をもって主張する。しかし、そのような障害は、ドイツ、デンマーク等の欧米そして中国等自然エネルギー先進国で主張されていることはない(もしくは克服されている)。欧米や中国でできていることが我が国でできないはずはない。
電力事業者は、率直に「空き」がある事実を認め自然エネルギーを受け入れるべきである。
自然エネルギーの発展は、電力事業者にとっても大きな利益となる。電力事業者自身が大規模に自然エネルギーに取り組めば、燃料費はゼロで、建設費用も建設期間も少なくて済む自然エネルギーは、電力事業者に多大な利益をもたらすことは確実である。
以上のとおりなので、経済産業省及び電気事業連合会においては、大手電力事業者に対して、「空き容量ゼロ」を理由とする系統連系(受電)拒否をやめるよう強力に行政指導することを求める次第である。

 

以上

「岐路に立つ裁判官  独立した司法が原発訴訟と向き合う」

『判例時報』2345号、2017年11月11日発行、判例時報社、pp. 3-5. (PDF ダウンロードはここをクリックしてください。)

岐路に立つ裁判官(8)
独立した司法が原発訴訟と向き合う①
――原発訴訟の基礎知識――

第一 原発訴訟の重要性
今の日本の社会問題、政治問題、経済問題の中で一番重要な問題は、実は原発問題である。それは大げさだという人がいるかもしれないが、事実だ。
なぜならば、原発の重大事故は、全ての社会的な基礎を覆すからだ。福島第一原発事故の最中に当時の原子力委員会の委員長近藤駿介氏が菅直人首相(当時)に提出した「福島第一原子力整電所の不測事態シナリオの素描」(通称「最悪シナリオ」)は、事故が最悪の経過をたどれば、半径二五〇km圏内(首都圏を含む東日本全体)が退避地域になると警告した。それは、国が亡びるのに等しい被害だ。そうなれば、全ての経済活動は停止し、日常生活は根底から覆される。治安の維持、貧富の格差是正、介護等の福祉、雇用拡大、教育、待機児童の解消、文化と技術の振興などどころではなくなる。行政の機能は麻痺する。司法さえ機能しなくなる。裁判官も放射能から逃げなければならないからだ。全ての社会、政治、経済問題は原発重大事故によって吹き飛ばされてしまうのである。原発重大事故を起こさないことは全ての社会、政治、経済問題の基礎なのである。
だからこそ、その原発重大事故を起こさせないために提起される原発訴訟は重要なのである。国の存立基盤に関わるのだから、全ての裁判の中で原発訴訟が一番重要だというのは決して大げさな言い分ではない。

第二 原発訴訟の種類
原発関連訴訟の種類としては、①差止訴訟、②設置許可取消の行政訴訟、③損害賠償請求訴訟、④株主代表訴訟がある。
①差止訴訟は、本案訴訟と仮処分事件に分かれる。従来は、本案訴訟がほとんどだったが、最近は仮処分に重点が移りつつある。本案訴訟では、判決に仮軌行宣言がつくことがほとんど無いので、最高裁で確定するまで執行力を持たない。それでは時間的に間に合わないということで、仮処分が多用されるようになってきた。再稼働許可(法的には、新規制基準への適合性審査の合格即ち設置変更許可)のなされた原発について、順次、差止仮処分が申請(勿論、本案訴訟は維持しつつ)されるというのが現在の流れだ。場合によっては、 一つの原発に複数の仮処分が申し立てられる(四国電力の伊方原発については、松山、広島、大分、山口の各地裁に係属している)。現在、全国で本案訴訟は二九件、仮処分は八件が係属している。
②行政訴訟は再稼働許可(設置変更許可)の取消訴訟のかたちで行われることが多い。重要なものとしては、川内原発についての設置・全史許可取消訴訟やもんじゅについての設置許可の取消しの義務付け、設置許可無効確認がある。
③損害賠償請求は、福島原発事故に起因する損害の賠償の請求である。原子力損害賠償紛争解決センターによる和解仲介手続(以下、ADRという)で処理されている件数が圧倒的に多いが、それに不満または信頼しない人々が訴訟を提起している。
原賠法により無過失責任となっているので、因果関係の主張・立証で足りる。ただし、国をも被告とする場合は「規制権限不行使」を過失として主張上立証しなければならない。前橋地裁判決(平成二九年二月一七日)はこれを認めた。その後、千葉地裁判決(平成二九年九月二二日)はこれを否定し、福島地裁判決(平成二九年一〇月一〇日)はこれを認めた。なお、原発事故による被害で最も深刻かつ核心的なのは、甲状腺がん、白血病などの健康被害である。小児甲状腺がんは本来は一〇〇万人に一〜二人という稀な病気だが、福島では三八万人に対して一九〇人以上発生している。この異常な発生率は、小児甲状腺がんと福島原発事故の因果関係を示していると思われるが、政府も県も「因果関係があるとは考えにくい」としている。その関係もあってか、原発事故と健康被害の因果関係を認めた判例はない。しかし、小児甲状腺がんを理由とする訴訟の提起が起きることは必至で注目される。
損害賠償請求訴訟は、全国で約二〇件、原告数で約一万一〇〇〇人という状況である。
④株主代表訴訟は、東京電力の株主が提起している。勝俣恒久氏ら元幹部役員を被告とし、訴額は、二二兆円である。ただし、貼用印紙額は、株主代表訴訟なので、一万三〇〇〇円である。審理は、人証調べ直前で、強制起訴による刑事事件の進行を横目で見ながら進行している

第三 原発訴訟の技術的困難性と課題
原発訴訟は技術的側面が非常に強い。原発の基本的構造に始まり、地震、津波、火山、人為的ミス等々についての発生原因、その威力・効果、それらへの安全対策の内容と効力、事故発生時の対応、避難の方法・実効性等々全てにわたって高度な技術的知識が必要となる。そして、その主張・立証のため膨大な主張書面と書証が提出される。書証番号が五〇〇号証を超えることは珍しくない。
それらによる論争にいきなり分け入ると裁判官は自信を失い、訳が分からなくなってしまう。そうすると裁判官は「分かったふり」または「分かっているふり」をしなければならなくなる。そうするためには、当事者への率直な質問や釈明をしないようにすることになる。質問などをすると「分かっていない」ことが分かってしまうからだ。その結果、どうなるかというと、電力会社、行政当局、電力側の学者の意見をそのまま受け入れ、はさみとのりで判決を書くということになる。なぜなら、それが一番楽で無難だからだ。判決後、マスメディアから「素人の裁判官に何が分かるのか」といった心ない非難を受けないで済むからだ。

一 課題一
過度に技術的な迷路に入らないようにするためには、まず、第一に、裁判官は日本の原子力発電の問題の全体像を把握する必要がある。原発問題についての俯敵図を持つ必要がある。そうすれば、日本社会全体における当該訴訟の位置付けや意味を理解することができ、見当違いの非常識な判決をしないで済む。「木を見て森を見ず」の弊を避けなければならない。原発の全体像を把握するためには、そのような書物や映画(ドキュメンタリー)を見るのが良い。裁判官に私知は許されないとすれば、当事者に対し、そのような書物や映画を証拠として提出するよう促せばよい。原発推進側のものとしては「原子力白書」、反対側の書物としては「原子力市民年鑑」、「反原発、出前します 高木仁三郎講義録」、映画としては「日本と原発 4年後」(法廷で上映されたこともある)、「日本と再生 光と風のギガワット作戦」などがよいだろう。
現在、日本では、原発について、「必要・安全・安心」キャンペーンが根強く展開されている。このキャンペーンは、三・一一福島原発事故直後は影をひそめていたが、最近は再び息を吹き返している。裁判官もテレビも見れば新聞も読む。裁判官もこのキャンペーンの影響を受け「資源小国の日本には原発は必要だ。世界最高の新規制基準に合格した原発は安全・安心だろう」と思っていないか。そのような思考枠組のバイアスを先ず取り除かねばならない。そのためには、原子力問題の俯欧図的把握が不可欠なのである。

二 課題二
技術的迷路に入り込まない方法の第二は、裁判官が当事者に率直に質問することだ。
今までに原発に深い関心を持っていたことがなかったであろう裁判官が、いきなり技術的問題を提示されて、すぐに理解できるはずがない。当事者はそのように見ている。だから、裁判官は心を開いて率直に質問すればよいのだ。間答のやり取りによって、裁判官は問題の核心に近付き、正しい理解に至ることができるのだ。ただし、そのためには、裁判官は記録をよく読んで間題点を把握しなければならない。よく記録を読まなければ質問もできないのだ。
私たちは、質問をほとんど発しない裁判官に接すると、「この裁判官は記録を読み込んでいないな。」とみる。そのような裁判官は審理は形式的にさっさと進めて結審し、それからゆっくりと記録に目を通して、電力、行政側の主張と証拠を適宜採用した判決を書くことになるのではないかと想像する。
裁判官による質問の場として適切なのが「プレゼンテーション」である。弁護士または専門家が、パワーポイントなどを用いながら、技術的な問題点を説明していくのである。裁判官は、随時、「そこをもうちょっと説明して下さい。」とか「このパワーポイントのこの赤線は活断層なのですか」とか質問できるのである。このプレゼンテーションは、伊方原発差止の仮処分などで数回実施された実債がある。プレゼンテーションの法的位置付けは議論があるが、パワーポイントの印刷したものを調書に添付するなど記録として残しておくことも可能である。プレゼンテーション以外に、裁判官が書面による求釈明をして当事者に釈明書を出させ、それをもとに審訊の場で更に質疑をするというのも良い方法である。ある高等裁判所で行われた実績がある。

三 課題三
第三に留意しなければならないことは、住民側と電力側、国側との力量の差である。
電力側、国側には支援する学者が集団として存在する。電力・国側から依頼されれば喜んで電力・国側に有利な意見書や鑑定書を書く有力学者はたくさんいる。なぜなら、原発推進に賛同する学者や大学教授は日常的に電力側から研究費や冠講座をもらい、ゼミ学生の就職厚遇などを得ている。したがって、頼まれれば進んで意見書を書き、証人となるのである。勿論有償だろう。しかし、原発反対側はそうではない。そもそも原発反対もしくは中立を標榜する学者は企業から研究費をもらえない。企業に支配される学界での地位向上も望めない。だから、脱原発に味方する学者が極めて少数なのである。だから、学者の意見書をもらうこと、まして証人に立ってもらうのも大変に困難を伴うのである。
また、電力側、国側には多数の有能な技術社員、公務員がいる。彼らは、これでもかとばかりに、詳しい技術的な書類を提出してくる。代理人弁護士名の準備書面のかたちは取っていても、実質は技術社員が書いたと思われるものも多い。他方、原告側にはそのような者はおらず、 一から十まで弁護士が勉強をして書面を書くのである。代理人弁護士の処遇にしても電力側の弁護士は十分な報酬を得て原発擁護事件に邁進できるが、脱原発側弁護士は着手金も成功報酬も無いことが圧倒的に多く、他の民事事件で細々と収入を得て、原発事件につぎ込むという者が大半である。  一から十までそのような状況であるから、裁判官は、双方の主張書面、証拠を見るときに、割り引きをして判断をすべきである。

四 課題四
技術的な迷路に入らない第四の方法として、技術的に微細な論点に惑わされず、原発訴訟の各論点は、本来的には常識で判断しうる問題であることをよく理解することである。
大飯原発差止の本案訴訟で福井地裁判決が「十年の間に基準地震動(想定地震強度)を超える地震が五回も原発を襲っているという事実は、結果として基準地震動の定め方が不適当ということを意味する。なぜそうなったのかを後講釈で聞いても意味がない。」と断じた手法である。「ハウスメーカーの住宅の耐震力は五一一五ガル(三井ホーム)、三四〇六ガル(住友林業)などである。他方、高浜原発の耐震力(基準地震動)は七〇〇ガルである。原発が住宅よりも六・七倍も弱くてよいはずはない。せめて、日本の過去最大の四〇四四ガル(岩手・宮城内陸地震)を耐震力にすべき」というような手法である。
このような方法だと技術的に素人である裁判官も自信をもって判断することができる。

五 課題五
第五に留意すべきは被害の大きさと要求される安全度は正比例するということである。
裁判官はまず第一に、その原発が危険かを判断し、第二に危険だと判断できたらそれによって起きる被害の大きさを判断し、しかるのちに差し止めるか否かを決定するという思考過程を取りがちである。現にそのように言明し「福島原発事故による被害のことは後回しだ。当該原発が安全ということになれば、その論点に入る必要がないのだから。」と言った裁判官がいた。それに対し私たちは「それは違う。福島原発事故による被害を立証することにより当該原発が重大事故を起こしたときに引き起こす損害の大きさを立証することは必要だ。なぜなら、予想される被害の大きさとその原発に要求される安全度は正比例するからだ。花火工場、ガソリンスタンドに要求される安全度と原発に要求される安全度とは格段に違う。だから、ただ抽象的に、「当該原発は事故を起こす可能性はあるか、という判断では駄目だ」と主張し審理方針を変えさせた

第四 おわりに―原発裁判は政治的裁判ではない
原発訴訟において、原告側(住民側)を勝訴させることは裁判官にとって大きな精神的負担となると言われる。それは、本来は間違っていることだ。なぜなら、原発是か非かという問題は、本来であれば、単に電気の作り方に関する価値無関係的問題のはずだからである。そのように科学的・物理的問題が政治問題化するのは、我が国においては、原子力発電が強大かつ堅固な政・官・財の利益共同体(「原子カムラ」といわれている)によって推進されているからである。最高裁判所もその意向を付度しているかもしれない。原発問題を政治間題化しているのは、原発反対派ではなく、原発推進勢力なのである。原発に反対することは、この強大な利益共同体と政治的対決をすることになる。原発を差し止める判決を出すことは、この強大な利益共同体の意向に反することになる。そして、その原子カムラに属するマスメディアの一部は、心ない批判をその裁判官に投げかけるのだ。それが、裁判官が大きな精神的負担を感ずる原因である。
しかし、憲法七六条三項は「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」と規定している。裁判官は、そのような精神的負担をはねのけて「良心」と「憲法又び法律」にのみ従って判決をしなければならない。判決は匿名で書くことはできない。必ず歴史に名を残す。将来、大災害やミサイル攻撃などによって原発重大事故が起きたときに、それを許してしまった裁判官として名を残すのか、国民を国家的破滅から救った名裁判官として名を残すのか。それが間われるのである。

(かわいひろゆき・弁護士)

[編注]「独立した司法が原発訴訟と向き合う」では、今後、井戸謙一弁護士、海渡雄一弁護士、中野宏典弁護士、岡田正則教授が論じる予定です。

東電幹部の民事・刑事責任は明らかに

海渡雄一 「東電幹部の民事・刑事責任は明らかに」、2017年10月、(PDFをダウンロードする場合は、ここをクリックしてください。)

東電幹部の民事・刑事責任は明らかに
海渡 雄一
 (東電株代訴訟弁護団・福島原発告訴団)

はじめに 推本の長期評価に基づく津波評価を行い、2009年6月までに対策を完了する方針
私たちは、東電役員の民事責任を追及する株主代表訴訟を担当していますが、同時に刑事告訴・検察審査会への申し立ての代理人を経て、現在は被害者遺族の代理人として手続きに参加しています。 6月30日、勝俣、武黒、武藤三被告人の刑事責任を問う、福島原発事故刑事裁判の第1回公判がようやく開かれ、検察官による冒頭陳述と証拠の要旨が告知されました。被告人とその弁護人等は事故の予見可能性がないなどとして無罪を主張しました。しかし、示された証拠を見る限り、被告人等の主張は通らないことでしょう。
東京電力の津波対策を担当していた土木グループは、2007年末に、推本の長期評価に基づいて、津波評価を行い、2009年6月に予定されていた耐震バックチェックの最終報告までに、この津波に対応する工事を実施する方針を決めました。政府見解であり、土木学会のアンケートでもこれを支持する見解が多く、東電の東通原発の許可申請でも取り入れていたことなどが、この見解の根拠です。この点は、裁判での大きな争点となるでしょう。

東電設計に対する依頼は、試算ではなく基準津波を決めるためのものであった
2008年1月11日、土木調査グループは、吉田昌郎らの承認を得た上で、東電として東電設計に対し、長期評価の見解に基づく日本海溝寄りプレート間地震津波の解析等を内容とする津波評価業務を委託しました。これは、正規の委託契約であり、この方針は、2月16日に、被告人ら3名も出席した「中越沖地震対応打合せ」の場で確認されていました。
2月4日に酒井氏が東京電力のながさわかずゆき氏らに送信した「1F、2F津波対策」と題するメールが残されており、「現在土木で計算実施中であるが、従前評価値を上回ることは明らか。」「津波がNGとなると、プラントを停止させないロジックが必要。」などとされています。まさに原発を止めなければならないほど重大な事態であることを技術陣は認識していたということです。この計算は、試算ではなく、東電が耐震バックチェックのために行う津波対策の内容を定めるための基礎資料でした。

10メートルを超えると対策工事の規模が大きく変わる
3月18日には、東電設計と東京電力との打ち合わせが行われ、計算結果の成果物が納入されています。15.7メートルの計算結果です。3月31日には、東京電力は、原子力安全、保安院に対して、福島原発5号機に関する耐震バックチェック中間報告を提出し、同時に福島県とプレスにも発表しました。この中間報告では、津波に対する安全性には触れられていませんでしたが、武藤は、福島県とマスコミに対して、平成21年6月までに津波対策を完了させ、バックチェックを終了することが、この時点での東電の方針であったことがわかります。これを受けて、4月18日には、東電設計は東京電力に対し南側側面から東側全面を囲うように10メートルの防潮堤(鉛直壁)を設置すべきこと、5号機及び6号機の原子炉・タービン建屋を東側全面から北側側面を囲うように防潮堤(鉛直壁)を設置すべきとする検討結果を報告しました。以下の図がその防潮堤の計画図面です。


https://shien-dan.org/wp-content/uploads/soeda-doc01.jpg

ここで、この鉛直壁が、建屋を覆うように南北に設置されていたことが決定的に重要です。
これまでの検察の不起訴理由、そして被告人等の無罪主張の根拠として、この計算結果では、津波は南側から敷地を襲うこととなっており、これに対して、南側だけに防潮堤を築く計画となったはずであり、そのような計画を実施したとしても、東側から押し寄せた津波には効果がなかったはずだと主張されていました。しかし、東電の技術者は、敷地の南北に建屋を覆うように防潮堤を計画していたのであり、検察と被告人らの弁解が成り立たないことが明白となりました。

武藤に対する決裁説明とちゃぶ台返し
6月10日の武藤への決裁説明と7月31日の武藤氏による津波対策先送りの経過は、これまでの検察審査会の決定で認められたとおりです。その間の平成20年7月21日には武藤、被告人武黒等が出席して「中越沖地震対応打合わせ」が行われ、耐震安全性強化に多額の費用がかかっていることが報告されています。中越沖地震によって柏崎原発が運転停止し、耐震補強のために東電は多額の工事費を投じて工事をしなければならず、それが経営を圧迫していたことです。この点が、次に述べる武藤らによるちゃぶ台返しの伏線だといえます。
7月31日、この武藤の指示により、地震本部の長期評価に基づいて、津波対策を講じるべきとする土木調査グループの意見は採用されないこととなりました。このことは、それまで土木調査グループが取り組んできた10m盤を超える津波が襲来することにそなえた対策を進める作業を停止することを意味していました。このことこそが、福島原発事故の決定的な原因です。

おわりに
来年1月には刑事裁判の証人調べが始まります。株代訴訟においても、刑事裁判の証拠の取り寄せの作業のめどが立つ来春頃には、刑事裁判を追っかけて、証人尋問に入っていきたいと思っています。株代訴訟原告団と福島原発事故刑事裁判支援団へのご支援をお願いします。