東電幹部の民事・刑事責任は明らかに

海渡雄一 「東電幹部の民事・刑事責任は明らかに」、2017年10月、(PDFをダウンロードする場合は、ここをクリックしてください。)

東電幹部の民事・刑事責任は明らかに
海渡 雄一
 (東電株代訴訟弁護団・福島原発告訴団)

はじめに 推本の長期評価に基づく津波評価を行い、2009年6月までに対策を完了する方針
私たちは、東電役員の民事責任を追及する株主代表訴訟を担当していますが、同時に刑事告訴・検察審査会への申し立ての代理人を経て、現在は被害者遺族の代理人として手続きに参加しています。 6月30日、勝俣、武黒、武藤三被告人の刑事責任を問う、福島原発事故刑事裁判の第1回公判がようやく開かれ、検察官による冒頭陳述と証拠の要旨が告知されました。被告人とその弁護人等は事故の予見可能性がないなどとして無罪を主張しました。しかし、示された証拠を見る限り、被告人等の主張は通らないことでしょう。
東京電力の津波対策を担当していた土木グループは、2007年末に、推本の長期評価に基づいて、津波評価を行い、2009年6月に予定されていた耐震バックチェックの最終報告までに、この津波に対応する工事を実施する方針を決めました。政府見解であり、土木学会のアンケートでもこれを支持する見解が多く、東電の東通原発の許可申請でも取り入れていたことなどが、この見解の根拠です。この点は、裁判での大きな争点となるでしょう。

東電設計に対する依頼は、試算ではなく基準津波を決めるためのものであった
2008年1月11日、土木調査グループは、吉田昌郎らの承認を得た上で、東電として東電設計に対し、長期評価の見解に基づく日本海溝寄りプレート間地震津波の解析等を内容とする津波評価業務を委託しました。これは、正規の委託契約であり、この方針は、2月16日に、被告人ら3名も出席した「中越沖地震対応打合せ」の場で確認されていました。
2月4日に酒井氏が東京電力のながさわかずゆき氏らに送信した「1F、2F津波対策」と題するメールが残されており、「現在土木で計算実施中であるが、従前評価値を上回ることは明らか。」「津波がNGとなると、プラントを停止させないロジックが必要。」などとされています。まさに原発を止めなければならないほど重大な事態であることを技術陣は認識していたということです。この計算は、試算ではなく、東電が耐震バックチェックのために行う津波対策の内容を定めるための基礎資料でした。

10メートルを超えると対策工事の規模が大きく変わる
3月18日には、東電設計と東京電力との打ち合わせが行われ、計算結果の成果物が納入されています。15.7メートルの計算結果です。3月31日には、東京電力は、原子力安全、保安院に対して、福島原発5号機に関する耐震バックチェック中間報告を提出し、同時に福島県とプレスにも発表しました。この中間報告では、津波に対する安全性には触れられていませんでしたが、武藤は、福島県とマスコミに対して、平成21年6月までに津波対策を完了させ、バックチェックを終了することが、この時点での東電の方針であったことがわかります。これを受けて、4月18日には、東電設計は東京電力に対し南側側面から東側全面を囲うように10メートルの防潮堤(鉛直壁)を設置すべきこと、5号機及び6号機の原子炉・タービン建屋を東側全面から北側側面を囲うように防潮堤(鉛直壁)を設置すべきとする検討結果を報告しました。以下の図がその防潮堤の計画図面です。


https://shien-dan.org/wp-content/uploads/soeda-doc01.jpg

ここで、この鉛直壁が、建屋を覆うように南北に設置されていたことが決定的に重要です。
これまでの検察の不起訴理由、そして被告人等の無罪主張の根拠として、この計算結果では、津波は南側から敷地を襲うこととなっており、これに対して、南側だけに防潮堤を築く計画となったはずであり、そのような計画を実施したとしても、東側から押し寄せた津波には効果がなかったはずだと主張されていました。しかし、東電の技術者は、敷地の南北に建屋を覆うように防潮堤を計画していたのであり、検察と被告人らの弁解が成り立たないことが明白となりました。

武藤に対する決裁説明とちゃぶ台返し
6月10日の武藤への決裁説明と7月31日の武藤氏による津波対策先送りの経過は、これまでの検察審査会の決定で認められたとおりです。その間の平成20年7月21日には武藤、被告人武黒等が出席して「中越沖地震対応打合わせ」が行われ、耐震安全性強化に多額の費用がかかっていることが報告されています。中越沖地震によって柏崎原発が運転停止し、耐震補強のために東電は多額の工事費を投じて工事をしなければならず、それが経営を圧迫していたことです。この点が、次に述べる武藤らによるちゃぶ台返しの伏線だといえます。
7月31日、この武藤の指示により、地震本部の長期評価に基づいて、津波対策を講じるべきとする土木調査グループの意見は採用されないこととなりました。このことは、それまで土木調査グループが取り組んできた10m盤を超える津波が襲来することにそなえた対策を進める作業を停止することを意味していました。このことこそが、福島原発事故の決定的な原因です。

おわりに
来年1月には刑事裁判の証人調べが始まります。株代訴訟においても、刑事裁判の証拠の取り寄せの作業のめどが立つ来春頃には、刑事裁判を追っかけて、証人尋問に入っていきたいと思っています。株代訴訟原告団と福島原発事故刑事裁判支援団へのご支援をお願いします。